年々増加の一途を辿る訪日外国人旅行者。
多くの外国人が日本を訪れる一方で、彼らが旅行中に困ったこととして、外国語が得意ではない日本人とのコミュニケーションの難しさや、多言語表示の少なさやわかりにくさを挙げています。
その課題を解決するひとつの手段として、多言語表示機能をもつデジタルサイネージの普及が図られています。
実際に街を歩けば、空港や駅、観光地の街角、商業施設などで英語や中国語、韓国語などの複数の言語で情報が表示されるデジタルサイネージを目にする機会が多くなっています。
政府は人口減少が見込まれる日本における重要な経済施策の一端としてインバウンド対策に力を入れており、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、訪日外国人旅行者の数は右肩上がりになると予想されます。
増加するインバウンド対策のひとつとして、デジタルサイネージの多言語化をさらに進めていく必要があると言えるでしょう。
今回は、いまや必須ともいえる多言語対応について、デジタルサイネージ導入前に知っておきたいポイントを解説します。
■「多言語表示が少ない」日本の課題を救うのは、デジタルサイネージ?
観光庁のデータによると、2017年に日本を訪れた外国人旅行者は前年比19.3%増の2869万人。
5年連続で記録を更新しています。
また、政府は2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけて、訪日外国人旅行者の数を4000万人に増やす目標をたてています。
実際、街中で外国人の姿を見かけることはもはや当たりまえの光景です。
しかし、日本を訪れる外国人が増える一方、訪日外国人旅行者にとって、まだまだ日本は旅行しやすい国とはいえません。
観光庁が日本を訪れた外国人に対して行ったアンケート調査 によると、訪日外国人が日本を旅行中に困ったこととして、「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」26.1%に次いで、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」21.8%を挙げています。
特に困った場所として、飲食店、鉄道駅、小売店などが挙がっています。
これらについて日本政府は「訪日外国人旅行者がストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備が課題」であるとしており、その課題を解決する手段として、多言語対応のデジタルサイネージに期待を寄せています。
今後増える一方のインバウンド需要にむけて、サイネージの多言語化をさらに進めていく必要があると言えるでしょう。
■多言語対応デジタルサイネージのメリット
多言語のデジタルサイネージで得られるメリットは、外国人旅行者が自国の言葉で、自ら情報を得られるということだけではありません。
導入する側の人件費などのコスト削減にもつながります。
従来の看板やポスター、パンフレット、あるいは人による案内では、複数の言語で同時に情報を伝えるには限界があります。
また、人の場合は24時間という訳にもなかなかいきません。
その点、画面を自動的にあるいはタッチパネルにより切り替えられる性質を持つデジタルサイネージであれば、旅行者自身が自国の言葉を自ら選び、必要な情報をいつでも引き出すことができるのです。
では、多言語対応のデジタルサイネージを導入するにあたり気にすべきポイントはどこなのでしょうか?
1. 翻訳
多言語化にあたり、一番目のハードルとなるのは翻訳です。
現在街中に実際に設置されている多言語デジタルサイネージでは、日本語・英語・韓国語・中国語(簡体字/繁体字)の5カ国語に対応しているものが多くなっています。
しかし、日本語はともかく、自分たちでその言語すべてを翻訳するのはなかなか大変です。
インターネット上には無料で使える翻訳サイトやアプリなどが存在しますが、それが実際に伝わる自然な表現なのかという不安が残ります。
注意喚起を促す文言などは特に気をつけなければなりません。
そのような場合は、翻訳業者に依頼するのが安心でしょう。
業者によっては、同時に複数の翻訳が可能な場合や、デジタルサイネージの翻訳を謳っている場合があります。
相場については、1文字あたり、単語数あたりなど、業者によって様々な料金体系ありますが、一般的な翻訳の場合、1文字数円~10円前後の場合が多いようです。
翻訳する内容の専門性によっても価格が上下します。
2.見やすさ
2-1.併記か?画面切り替えか?
次に気にすべきポイントは、どのように表示させるかでしょう。
多言語でデジタルサイネージに情報を載せる際、考えられる表示の仕方は併記と画面切り替えの2通りあります。
それぞれの特徴は次のとおりです。
併記
漢字によみがなをふるイメージで、単語の下にひとまわり小さく他言語で表示する、あるいはまとまった文章の場合、画面を区切って複数言語を表示するなどの方法があります。
併記することで、画面で一度に確認できるというメリットはありますが、表示する文字を小さくせざるを得ないというデメリットも生じます。
日本人が画面を見て外国人旅行者に説明をする際にとても役立つでしょう。
マップ系、飲食店のメニューなどに向いています。
とはいえ、3つ以上の言語の場合、画面上の情報が過多になりすぎる傾向があるので注意が必要です。
画面切り替え
同じ内容の画面を他の言語表示に一定の間隔で切り換える方法もあります。
こちらは、駅や電車内のサイネージにもよく用いられている方法です。
こちらの最大のメリットは、限られたスペースでも高い視認性を保ったまま表示が可能である点です。
これはデジタルサイネージならではの強みです。
タッチパネルのデジタルサイネージの場合、言語を選ぶための別画面を設けたり、画面の端に言語を変えるためのボタンを並べたりするのもよいでしょう。
これは3つ以上の言語がある場合、特に有効です。
2-2.アイコン化という選択肢
例えば、フロアマップのような視覚的な情報の場合、言語に頼らないアイコンを利用するのもよいでしょう。
コンテンツを視覚的にユーザーに伝えることができるため、翻訳の必要がありません。
デザイン性に柔軟に対応が可能です。
子どもなどにも理解しやすくなるでしょう。
スマートさの演出にも一役買います。
とはいえ、画面の大きさや内容によってどのようなアイコンが適切か、デザインを慎重に考えていく必要があります。
3.言語の数
表示可能な言語は、必ずしも多いからよいというわけではありません。
当然ながら、言語数が少ない方が、表示する内容が少なくなりその分コストを抑えられます。
何カ国語必要かは設置場所や地域、用途により異なります。
用途と費用の兼ね合いを事前にしっかりと考える必要があるでしょう。
観光用に情報提供するデジタルサイネージや、外国人に人気の和食店のメニューなど、街中にある旅行者向けのものは、特に利用者が多い、日本語・英語・韓国語・中国語(簡体字/繁体字)の5カ国語がおすすめです。
一方で、言語数を抑えられる例もあります。
例えば、こちらの記事(『【導入事例】メニューのデジタルサイネージ化で社員食堂を快適空間に!』)で紹介したような、社員食堂のメニューサイネージの場合、日本で働く外国人は英語あるいは日本語が読める人が多いため、表示言語は日・英のみでも十分でしょう。
あるいは特定の国の方が多く働いている場合は、その国の言語を入れてもよいでしょう。
ほかにも、例えば横須賀の不動産屋さんのサイネージは、アメリカ海軍の軍人が多い地域という場所柄、導入は英語のみとした、という事例があります。
4.音声
デジタルサイネージならではの強みに、音声を利用できることがあります。
近年は音声ソフトによる外国語の読み上げも可能になっています。
こちらは、バリアフリー対応にもなります。
用途に合わせて導入することで、より効果的に外国人観光客の注意を引くことができるでしょう。
まとめ
2020年に訪日外国人旅行者の数を4000万人に増やす目標を掲げている日本。
日本人の目から見てもときに複雑な表示やシステムを抱えているこの国は、まだまだ観光立国とはいえない現実があります。
日々増えてゆく訪日外国人にストレスなく旅行を楽しんでもらうためには、多言語対応のデジタルサイネージが大きな役割を果たすでしょう。
ひとくちに多言語対応といっても、場所や用途、想定される利用者によって利用する言語、表示方法にいくつかの選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあることがお分かりいただけたのではないでしょうか?
導入の目的や想定される利用者を見極め、多言語機能についてより効果的な方法を選ぶ助けになれば幸いです。