商業施設の店内やレストラン、駅前、バス等の公共機関、駐車場、住宅地、病院、不動産仲介店など様々な場所でデジタルサイネージが活用されています。
前回、スーパー銭湯・温泉に着目して、現状は普及していないものの、実はデジタルサイネージを利用することが有効ではないかというケースについて書いていきました。
今回は、本屋にフォーカスしていきます。
書店関係の仕事をされている方はもちろん、そうでない方も、事業の拡大や自身の業務改善をしていくという目線で見ていただけると幸いです。
※弊社の導入実績ではなくイメージであることをご了承ください。
書店ビジネスは脅威が多い?いまさら聞けない本屋の種類をピックアップ!
本屋は本を店内で販売して収入を得る小売業がメインです。
まずビジネスモデルや現状の課題を把握するために、3C分析というマーケティングのフレームワークを用いながら、自社の特徴や消費者層、競合他社について分類して考えます。
既に知っているものが多いかもしれませんが、今一度様々な形態がある書籍関係のビジネスをおさらいしましょう。
自社(Company)
①全体的な特徴
出版社が出版し、仕入れた書籍や雑誌を販売した際の取り分(市場価格の22%ほど)が主な事業収入となっています。
販売比率は本屋のコンセプト等によって異なりますが、書籍:雑誌=2:8~3:7ほどの比率の店舗が全体の約4割となります。
(出典:日本書店商業組合連合会(2016)『全国小売書店経営実態報告書』。以下、日書連(2016)。)
週間・月刊など定期的に発行される雑誌は、リピーターが多く繰り返し購入してもらえる見込みがあります。
書籍の場合は、短期間で大量に販売されるものもあります。
芥川賞・直木賞のような受賞によって注目が集まる場合、単行本の新刊が発行されたときに既に発売中の既刊もまとめて購入される場合などです。
また、本以外にも、文房具や手帳、CD・DVDなど様々な商品を小売販売しています。
事業の売り上げは、顧客数×平均単価×平均リピート数という関係にありますが、関連商品の小売販売は単価の向上、雑誌の購入はリピート数の増加に繋がっているでしょう。
②規模ごとの特色
・大型チェーン店舗
ジュンク堂書店、紀伊国屋書店、三省堂書店、丸善などが該当します。
都市部の駅前を中心に出店し、書籍数の多さや新発売の本の大量入荷、ターゲット(ビジネスマン、都市部の主婦など)に集中した品ぞろえ、サービス提供などが特徴です。
蔵書検索システム、ポイントカードなど消費者を意識した設備を多く整えていることも特徴です。
・小型店舗
街中にある小規模の本屋です。
特定エリアに展開しているものや、個人経営のものもあります。
同じ店舗に通い続けるリピーターが多いことが特徴です。
・複合型書店
本屋以外の機能も備えた書店で、大型店舗などが取り入れています。
書籍・雑誌以外のものを販売している店舗が該当し、兼業をしていない専業店が全体の30%ほどであることから、約7割の書店はこの形態であると言えます。
(出典:日書連(2016))
認知度が高くイメージしやすいものは、TSUTAYAの運営する蔦谷書店です。
本屋とレンタルショップが合わさった形態で、一方を訪れたお客様がもう一方も利用するというシナジー効果(相乗効果)が見込めます。
その他にも、リアル店舗とECサイトが複合した店舗もあります。
消費者(Consumer)
店舗の近くに住んでいる・通勤通学で店舗付近のエリアを利用する人々がターゲットになります。
店舗のコンセプトによって年齢層や社会属性は変わりますが、幅広い層が利用しています。
過去からの大きな特徴変化は、インターネットの普及と電子書籍の発達です。
ウェブサイト上に様々なコンテンツが生み出されることで、若年~中年層を中心に書籍でなくインターネットで記事を読む傾向が進んでいます。(当サイトの記事もその一部です)
消費者の立場では、スマートフォンやタブレットで本を持つ必要がなく手軽に読むことができる・多くの記事を無料で読むことができるなど便利になっています。
しかし、紙媒体の書籍や雑誌を扱う出版社や本屋にとっては、大きな脅威となっています。
雑誌・書籍ともに販売数・購読数は減少していき、安定した収入源が減っているのが現状です。
競合他社(Competitor)
・中古書店
古本屋や、BOOK OFFなどが該当します。
古本屋では、一般の書店で売っていないような数十年前に発行された本を購入することができることが大きな違いです。
BOOK OFFなどの形態では、低価格で本、CD、家電等様々な商品を購入することができます。
・ECサイトのオンライン書店
Amazon、楽天などのネット通販を行っているサービスです。
ネット書店とも言われます。
店舗で在庫を抱えないために、通常の店舗が扱うことのできないような専門的な書籍の品揃えも多いこと、電子版など安く買うことができることもメリットです。
・電子書籍
先ほどご紹介しましたが、インターネット上で書籍の購入、購読ができるものです。
専用端末があるAmazon社のKindle、アプリのBookLive、Rentaなどが該当します。
低価格の読み放題サービスを提供しているものもあります。
・コンビニ
書店ではありませんが、雑誌コーナーを用意していて、24時間購入可能な点で競合の一つとなります。
仕事の時間の関係で日中に書店に行くことができない人などは、書籍の購入もコンビニを利用するでしょう。
食べ物、飲み物などを購入するついでに最近発売した書籍を買うというケースも多いです。
・図書館
公共サービスでありますが、書籍を利用できるという点では競合の一つとなります。
無料本を借りられるため、購入せずに図書館で読みたい書籍を見つけて借りるという人も多いでしょう。
様々な競合が出てきたことにより、従来のやり方では経営が持続しないリスクがあります。
日本は人口当たりの書店数が多い本屋大国ですが、このような状況を受け減少傾向にあります。
実際に、大型店舗でも閉店してしまうものが後を絶たないのです。
競合にない差別化が大切!本屋にデジタルサイネージを導入して売上アップ!?
これまで説明してきたことをまとめると、ECサイト、電子書籍など多くの競合が増えたことで、消費者側の購読における選択肢が広がったために、従来の方法では経営が厳しくなっている状況が一番の問題です。
すなわち、書店が従来提供していた、「書籍を揃えていて売ってある場所」という点だけでは現代では不十分なのです。
そこで、本屋がもたらす価値について考えてみましょう。
読者のあなたが本屋に行く時はどのような状況でしょうか?
人によりけりですが、①目当ての本をすぐに購入したいとき②中身を判断することや他の本を吟味したうえで購入したいとき③特に目的はないものの、書店が視界に入ったとき(本や雑誌を眺めにきた)、のうちのいずれかであることが多いと思います。
<「今すぐ客」や潜在顧客に対して>
①の場合、Amazon、楽天などのECサイトを使って注文し、家に届くのを待つよりもすぐに入手することが出来ます。
「今すぐに商品を手にしたいという欲求を持っている人々がターゲットになります。
新発売された本が特に当てはまるでしょう。
このような層を新たに増やす場合は、店舗近くで本の広告を流すことが一つの手段になります。
屋内にあり遠くからでも見ることができる本屋の場合、広告により店舗や本を認知してもらい、購入につなげるというのも一つのプロセスです。
③の場合も同様に、店舗近くを通りかかる人々を潜在顧客にすることが出来るようになります。
この、「視界に入り購買欲を訴求する」行為にはデジタルサイネージを活かすと効果的でしょう。
デジタルサイネージではSTB(セットトップボックス)を用いることで自作(外注も可能)の画像や映像を表示できます。
幾つかの書籍のコンテンツを製作し、デジタルサイネージで掲載することで、市場の本屋やインターネット上で使われているポスターや映像広告とは異なったオリジナルのものを打ち出すことができます。
<内容を確かめたい見込み顧客に対して>
②の場合は、立ち読みをすることが前提のため、本の概要や他の人の評価などが気になります。
立ち読みをして候補の本を眺め、スマートフォンを取り出してECサイトや書評サイトでレビューを見て、そのままスマホで書籍を購入。
価格比較サイトを用いた家電量販店の「ショールーム化」現象に見られるように、本屋でもこのような流れで機会損失が生じてしまうというケースもあるでしょう。
そこで、蔵書検索システムのソフトウェアの追加や、デジタルサイネージの設置により、本屋でそのまま本や雑誌を買っていただくまで行動を促すことも可能なのです。
具体的には、書店の各店舗単位で行っている「書店員のオススメ・レビュー」を集約化してデジタルサイネージのコンテンツとして配信するのです。
チェーン店の場合は、自店舗の売り上げを伸ばすために店員の方が手書きで本のPRをしているというケースが店舗ごとにあると考えられます。
それらを一元的にコンテンツにして配信することができれば、少ない労力で自社の全店舗に店員のレビューを表示できます。
デジタルサイネージを活用すれば、ネットワーク接続により短時間で一斉に更新することが可能です。
特定分野に造詣の深い本屋コンシェルジュを配置しているような書店グループの場合は、その人の専門的知見を同様に配信することも出来ます。
<新たな広告収入源やデータ分析>
また、本屋という「書籍を求める人々が集まる空間」により生まれる付加価値についても着目してみましょう。
実用書、ビジネス書、暮らしに関わる書籍など、何か仕事や生活をよくするための情報(実学情報)を求める人や、漫画・小説など楽しさをもたらす情報(エンタメ情報)を求める人などが多く存在します。
書籍を求めているということはそのような情報に対する欲求が強く、自身で情報を収集しようとする感度も高いと考えられます。
そのような層に対して広告を配信したいと考える企業や、年齢層などのマーケティングデータを欲しいと思う企業も多いのではないでしょうか。
そこで、デジタルサイネージを設置して①でご紹介したような本自体のプロモーションを行うほかに、企業広告を掲載することで広告収入を得ることが可能なのです。
ある大型チェーンの書店では、レジのPOSシステムにデジタルサイネージを取り入れ、お客様が商品を購入する際の会計画面に広告を掲載しています。
また、広告を掲載する際には、設定した広告単価の説得力を示すため・広告主からの信用を獲得するために、その効果測定を行うことが多いです。
期間保証型やインプレッション保証型(表示回数保証型)と呼ばれる料金体系の場合、一定の表示期間・表示回数に対してどれだけ広告のターゲットとなる人々が広告を見たかが評価対象になります。
ポスターや置きチラシなど紙媒体の広告では、広告を見た人の検知ができないため、正しく効果測定を行うことはできません。
実はこの「広告を見た人を判断する」行動にも、デジタルサイネージを活用できるのです。
顔認識機能を備えたデジタルサイネージでは、ディスプレイを見た人々の年齢や性別を記録しています。
このデータは自社のマーケティングに活用するのはもちろんのこと、広告を掲載するケースでは、広告の効果測定にも役立つのです。
蔵書検索システムを利用した人々のデータを蓄積すれば、本屋自体のマーケティングや業務改善に繋がるだけでなく、情報の販売も選択肢に含まれます。
ポイントカードによって本を購入した会員のデータは既に多く蓄積されていますが、会員以外のすべての人々の購入する前の潜在顧客・見込顧客の行動を記録したものはそれほど多くないでしょう。
デジタルサイネージの活用は、このような定性・定量データの収集にも活かせるのです。
既にある資産を有効活用!導入時のポイント
これまで本屋の収益拡大のポイントやデジタルサイネージを導入するメリットについてご説明してきましたが、いざ導入するとなると費用面から厳しいと感じる方もいらっしゃるでしょう。
初期投資(イニシャルコスト)や新規顧客を増やすための費用(顧客獲得単価、CPA)は高くなるかもしれませんが、一人のお客様がリピーターになることによる長期的な収益(顧客生涯価値、LTV)を考慮すると、投入費用に対する効果は大きいという状況もしばしばあります。
また、書店の場合はデジタルサイネージを導入する際の初期投資を抑えることも可能です。
デジタルサイネージで画像や動画を表示するには、表示内容を製作すること(ソフト面)とそれらを映すディスプレイを用意する(ハード面)必要があります。
本屋の場合は、書店の在庫検索システムのディスプレイや、アニメーション・CM広告を流すための小型端末を置いているところが多いです。
いい換えると、ハードになりうる固定資産はすでに手元にある、というケースも考えられます。
実際に導入費用がどれくらいに抑えられるかということは、デジタルサイネージのソフトウェアを販売する企業と見積もりをしなければなりませんが、通常サイネージを取り入れるよりも安価になる見込みが高いです。
特にチェーン店の場合は、ネットワーク接続を行いクラウドを用いることで、複数店舗で同一内容を管理・更新することが出来ます。
各店舗に本や雑誌・漫画を宣伝する広告媒体を配り、店員が設置する手間とコストが削減できることを考えると、実は大きな業務効率化に繋がるのかもしれません。
書店に限らず、デジタルサイネージを初めとする新技術を導入する場合は、既存の設備とのシナジー(相乗効果)を考えてみると、意外なアドバンテージが見つかることもあるでしょう。
まとめ
今回は本屋に着目してデジタルサイネージ導入の余地についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
本屋・書店に限らず、時代や技術・外部環境の変化によって、今までのやり方では自社の事業が持続できないリスクが生じています。
そのような状況で、現状を認識して改善策を実行していくことは不可欠な取り組みとなります。
そして改善策として様々な手段を頭の片隅に入れておくことが、いざというときの助けとなるでしょう。
デジタルサイネージもその手段の一つとして、ご検討ください。
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