デジタルサイネージの市場規模が年々拡大しています。
交通機関、商業施設、公共施設、オフィス、医療機関…街中のあらゆる場所で見かけるようになり、その勢いを肌で感じることができます。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけて、国や自治体もデジタルサイネージの利用を推進するなど、市場規模は今後ますます拡大することが予想されます。
そこで今回は、デジタルサイネージ市場の規模について、これまでの状況や現状、そして今後についてお伝えします。
デジタルサイネージ市場の動向
以下は総務省による、デジタルサイネージ市場が2012年から毎年飛躍的に拡大していくという見積もりを表したグラフ です。
(総務省『デジタルサイネージの市場動向と可能性』より抜粋)
システム関連市場と広告・関連市場を合わせたデジタルサイネージ市場全体での規模は、2012年は845億円でした。
それが2018年には、なんと9倍相当の7,920億円となることが予測されています。
こちらは同じく総務省による、デジタルサイネージ市場を項目別に推計したグラフです。
(総務省『デジタルサイネージの市場動向と可能性』より抜粋)
表示端末市場、タブレット端末市場、システム市場、配信運営市場、広告・企業販売促進、コンテンツ・情報提供という全6項目のいずれも、成長していくと予想されています。
市場において特に大きな割合を占めているのが表示端末市場と広告・企業販売促進の2項目であり、デジタルサイネージの現在の主な役割は広告メディアであることが、ここから読み取れます。
一方、2012年にはグラフ上にはほとんど見えなかった、コンテンツ・情報提供も着実に伸びており、デジタルサイネージが広告以外の目的でも幅広く利用されてきている様子が伺えます。
デジタルサイネージ市場拡大の背景
1.広告用途
先ほどの総務省のデータからわかるように、現在デジタルサイネージは主に広告媒体として利用されており、まさしくその広告用途が市場拡大に寄与してきた最大の要因です。
従来の看板やポスターといった広告媒体とは異なり、静止画だけではなくスライドや動画、音楽などで表現の幅が広がったデジタルサイネージは、設置場所や時間に応じて表示する内容を変えることができます。
また、ネットワークを介することで、遠隔地に設置したり、多数のディスプレイのコンテンツを一括で変更したりすることも可能です。
こうした高い柔軟性・利便性こそが、新しい広告メディアとしてのニーズを支えてきた最大の要因だと考えられています。
このように広告媒体としての需要を獲得してきたデジタルサイネージは、その設置場所やコンテンツも多様化してきています。
電車の中、ビルの壁面、駅のコンコースの柱、商業施設の入り口や店内など、今やデジタルサイネージは街中のあらゆる場所で見かけます。
コンテンツについても、ビルに設置されている巨大なディスプレイには最新の映画や音楽のプロモーションビデオが流れ、電車の中では行先案内の次に販促商品に絡めたクイズが流れ、病院では案内図が表示された後に画面が切り替わり健康に関するセミナーの案内が流れるなど、その内容は多岐にわたります。
さらに最近では、インタラクティブなデジタルサイネージも登場しており、タッチパネルディスプレイを採用し利用者が必要な情報を選択することができるタイプや、画面に利用者の姿が映し出され、商品のキャラクターと一緒に写真が撮れるといったエンターテイメント性の高いタイプも登場しています。
こうした表現の多様さも、サイネージの広告としての価値を上げる要因となっています。
2.技術の進歩による低コスト化
もう一つ市場拡大を後押ししてきた背景が、技術の進歩です。
デジタルサイネージの普及と共に、ディスプレイやネットワークに関する技術的な側面も成長していきました。
技術の進化に伴い、ディスプレイや配信に掛かるコストが低価格化して導入のハードルが低くなり、それがさらなる普及に結びついたと考えられます。
2020年に向けてより拡大するデジタルサイネージ市場
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて、デジタルサイネージ市場も拡大していくと言われています。
市場の拡大を後押しするものとしては、国の施策を含め4つの要因が考えられます。
1.国の政策によるデジタルサイネージ市場拡大の後押し
デジタルサイネージの市場拡大を後押しする主な要因は、国や自治体による政策です。
総務省は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックや、それ以降の日本の持続的な成長を見据えた社会全体のICT化の推進に向け、アクションプランを策定するため、「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」を立ち上げました。そのなかで、デジタルサイネージは「非常に有用な総合情報通信端末」として位置付けられ、「2020年に向けた社会全体のICT化 アクションプラン」のなかでデジタルサイネージの機能の拡大を示しています。
具体的な内容については次のとおりです。
- 災害情報等の一斉配信サービスの対応
災害などの緊急時における災害情報、避難所情報等や、オリンピック・パラリンピック等をデジタルサイネージから一斉配信
- 個人属性に応じた情報提供
・訪日外国人に対して、観光情報や競技情報、災害情報等を多言語で情報提供。サイネージにかざしスマホタブレットに自国語で表示
・スマートフォン等の他のデバイスとの連携等により、個人の属性に応じた双方向による情報提供、Wi-Fiスポットとしての活用、美術館や博物館、レストラン等のクーポンの入手等
- 4K・8K高度な映像配信・パブリックビューイング
開催地東京のみならず、地方、海外においても、オリンピック・パラリンピックの感動(高精細映像・音響等も含めた競技会場の情報を伝送し、中継会場に応じた競技の場の再現による超高臨場感観戦体験)を共有できる場を提供
(総務省『2020年に向けた社会全体のICT化 アクションプラン(第一版) 概要』より引用)
2.社会的なインフラへの役割変化
2011の東日本大震災では、災害情報を求めて人々がデジタルサイネージの前に集まりました。
それ以降、デジタルサイネージの、緊急時に災害情報や避難情報を提供する役割が注目されるようになりました。
また近年では、訪日外国人や高齢者、障がい者をスムーズに誘導するため、そして高齢化社会を見据えたバリアフリー環境の整備のための有効なツールとしても利用が見込まれています。
つまり、デジタルサイネージに社会的なインフラの役割も期待されるようになってきたと言えます。
3.再開発における設置場所の拡大
2020年に向けて、首都圏では大規模なインフラ整備や再開発などが進められていることも、市場拡大の要因のひとつに挙げられます。
デジタルサイネージが設置可能な場所が増えるため、それに合わせてデジタルサイネージの需要も拡大すると考えられます。
4.デジタルサイネージ関連のテクノロジーの発展
日々進化し続けるデジタルサイネージをとりまく技術も、これまで同様に市場拡大の重要な要因となります。
オリンピックでのライブビューイングでの実現が期待されている「4K」「8K」といった映像技術の向上や、文字・画像だけでなく、動画や音声も扱えるようになった「HTML5」の登場、透過ディスプレイや曲面ディスプレイなどのディスプレイの進化、顔認証などセンサー機能の発達といった技術革新が次々と登場しています。
新たな技術が加わることにより、デジタルサイネージで表現できる幅が広がり、新たなニーズの創出につながります。
こうした見込みから、デジタルサイネージに関わる技術や運用ルールの標準化も進められています。
まとめ
そもそもデジタルサイネージの概念は境界がはっきりしていません。
デジタルサイネージの業界団体である、一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムの定義では、デジタルサイネージとは「屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するシステムの総称」であるとされています。
つまりデジタルサイネージには、一般的な広告媒体の枠を超えて、ディスプレイの大小や屋内外、利用シーン、利用目的を問わず、ネットワークを介してさまざまな情報やコンテンツを提供する事が期待されているのです。
今後のテクノロジーの発展により、現時点では「デジタルサイネージ」としてとらえられていない機器や利用方法もその範疇となる可能性があり、まさしく無限の可能性を秘めたメディアといえます。
技術の進化とともにデジタルサイネージ市場のまだ見ぬ成長にも、期待がかかります。
参照URL:
総務省HP「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会 デジタルサイネージワーキンググループ」:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/2020_ict_kondankai/index.html
一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムHP:
http://www.digital-signage.jp/
ビジネス+IT『デジタル・サイネージとは何か?デジタル広告媒体が新たな広告市場を拓く【2分間Q&A(59)】』:http://www.sbbit.jp/article/cont1/20066
NTT東日本HP『情報メディア第4の波 「デジタルサイネージ」とは何か(前編)』:
http://www.ntt-west.co.jp/solution/hint/2010/nakamura.html